原発なくそう!九州玄海訴訟

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「原子力災害対策の問題点総括」を記者会見で発表

  • 2014年03月14日 10:13

           原子力災害対策の問題点総括

                     2014年3月11日
                     「原発なくそう!九州玄海訴訟」                           原告団長 長谷川 照 


■ 質問状提出の経緯
2013年7月12日から2014年1月30日にかけて、「原発なくそう!九州玄海訴訟」原告団は、佐賀県在住の原告を中心に、佐賀県内の自治体に対して原子力災害対策に関する質問状を提出してきました。

質問状提出の問題意識は、「新規制基準と原子力災害対策(避難計画)は車輪の両輪として機能することが予定されているのに、実効的な原子力災害対策はできていないのではないか。そうであれば、原発再稼働が許されるはずがない。原子力災害対策(避難計画)の実効性を、市民自ら確かめてみたい。」というところにありました。

今回、質問状を提出した自治体は、佐賀県、玄海町、小城市、伊万里市、有田町、武雄市、唐津市の7自治体です。

国の原子力災害対策指針で避難計画策定が求められている原発30㎞圏内の自治体のみならず、その30㎞圏内からの避難受入先として予定されている自治体(小城市、有田町、武雄市)にも質問状を提出しました。その理由は、①避難受入れ体制の整備状況を検証するため、②放射性物質が30㎞圏外に到達した場合の対応を検証するためです。

【提出・回答日】
 2013年 
7月12日 佐賀県に対し、要請書を提出
   8月 2日 7月12日付要請書に対し、佐賀県から回答
  10月 7日 小城市に対し、質問状提出
  10月21日 10月7日付質問状に対し、小城市から回答
  11月28日 伊万里市、有田町、武雄市に対し、質問状提出
  12月10日 佐賀県に対し、佐賀県原子力防災訓練に関する質問状を提出
         11月28日付質問状に対し、武雄市から回答
  12月12日 11月28日付質問状に対し、伊万里市、有田町から回答
 2014年
   1月 8日 2013年12月10日付質問状に対し、佐賀県から回答
   1月30日 唐津市に対し、質問状を提出
   2月17日 1月30日付質問状に対し、唐津市から回答

■ 原子力災害対策の実効性を考えるにあたってのポイント
  私たちは、今回総括をするにあたって、以下のポイントに注目しました。

1 事故時に素早く対応できるか
冷却装置が停止した場合、最悪のシナリオではメルトダウンに至るまで78分とされています。最悪の事態にも対応するためには、わずか78分の間に避難を開始しなければなりません。そのためには、判断権者が明確であること、指示系統が明確であること、どの時間帯に事故が起きても住民に正確な情報を伝達できることが重要です。

2 避難手段、避難ルートの確保はできているか
計画では、避難は原則自家用車で、自家用車が出せない方は隣近所と乗り合いで、とされていますが万全でしょうか。民間団体の分析によれば、玄海原発30㎞圏内の住民全員が避難するのに、国道のみを使用する場合は約40時間かかるとの試算結果が出ています。試算結果で考慮されていない悪条件(渋滞や事故など)が加わることも十分にあり得ますが、その場合の対策はできているのでしょうか。

また、避難誘導や交通整理をする人員・体制は十分でしょうか。避難は各自治体の境界を超えて行われることから、隣接する自治体間での十分な協議・調整も必要だと考えます。

3 お年寄りや身体が不自由な方などは避難できるのか
お年寄りや身体が不自由な方、介護施設入所者や入院患者など(要援護者)の避難は特別な支援が必要です。フクシマの事故では、病院・施設から避難できずに亡くなった方が多数います。佐賀県ではそれらの方々のための備えはされているのでしょうか。

4 受入れ体制は万全か
避難者を受け入れる自治体は、避難者の放射性物質汚染を測定するためのスクリーニングをする必要があるはずです。そのための機器の備えはあるのか、また、汚染された物品の除染はできるのでしょうか。

当然のことですが、飲料水や毛布などの生活物資の備えも必要です。

5 再避難はできるのか
国は、原発から30㎞圏内の自治体にのみ原子力災害対策を定めるよう求めましたが、放射能が30㎞圏内にとどまってくれる保証はありません。実際、フクシマでは、福島第一原子力発電所から40~50㎞の距離にある飯舘村も放射能で汚染されて避難を余儀なくされました。市民の健康を守るためには、放射能が30㎞圏外にある避難先まで拡散してしまったときに備えて、再避難のことを定めておく必要があるはずです。

6 長期避難に対応しているか
福島県では今なお約13万6000人が避難生活を強いられていることから明らかなとおり、原子力災害による避難生活は長期にわたります。長期にわたる避難生活の疲れから亡くなった方、自死した方も多くいます。これら被害を防ぐためには、長期避難に備えた計画・対応が必要になります。

7 その他
安定ヨウ素剤の配布、原子力災害の専門的知識を持つ職員の有無なども押さえるべきポイントと考えます。

■ 各自治体の回答の概要は以下のとおり。
【玄海町】30㎞圏内
・事故進展の想定は国任せで玄海町独自のものはなし。避難時間推計シミュレーションも行っていない。
・お年寄りなどの災害時要援護者の避難については、町で策定した「個人避難支援プラン」に基づいて行うが、避難を支援する支援者が十分でない。
・避難道路が封鎖された場合は、県災害対策本部任せで、県の避難誘導に期待。
・病院・福祉施設等の避難計画の策定状況は把握していない。
・避難場所は小城市。小城市方面へ放射性物質が飛散する可能性はあるが、小城市に向かう避難ルート以外のルートは決めていない。
・長期にわたる避難計画は現在はなし。

【唐津市】30㎞圏内
・屋内退避や避難指示は、国や県の指示に基づき又は市町の判断により市長が住民へ避難等の指示を発令することになっている。
・自家用車による避難が困難な方がどの地区にどれだけいるのかは把握していない。
・避難受入先の市町村とは避難のための協議をしていない。
・離島の島民数は約1800人だが、離島住民の一時避難所の収容人数は約900人。
・病院や福祉施設の避難計画は把握していない。病院・福祉施設等の避難先は決まっておらず、検討中。
・安定ヨウ素剤の服用方法など、市民に説明する具体的計画はなし。

【伊万里市】一部30㎞圏内
・原子力災害について得ているシミュレーション情報は、原子力規制庁が公表している「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」。しかし、この情報は、地形情報を考慮せず、気象条件も単純な条件に仮定されたもので、目安に過ぎない。
・原子力関する専門的知識を持った職員はいない。
・原子力災害の発生情報を伝達するための防災行政無線を配備できていない。配備には約8億円が必要で、予算捻出が課題。
・車に乗り合っての避難のシミュレーションは行っていない。
・国が詳細を決めていなかったり、時間や経費がかかるために、伊万里市地域防災計画で実行できていない計画がある。
・避難経路となる国道や県道、市道の整備は十分とはいえない。
・病院や福祉施設などの避難計画策定状況を把握していない。
・避難先が放射能汚染された場合の再避難先は確保できていない。

【小城市の回答の要旨】*玄海町、唐津市からの避難受入先
・避難者のスクリーニングや除染のための機器・体制はなし。放射性廃棄物の処理も定まっていない。
・避難受入れについての市民への告知は十分ではない。
・小城市からの避難計画はなし。避難が必要になった場合は県の対応に期待。(これについては、県は国の対応に期待。しかし、国は何ら計画つくらず。)

【有田町の回答の概要】*有田町は伊万里市からの避難受入先
・避難受入れ時に生じうる、ガソリン不足、渋滞、事故への対応は定めてない。
・避難者のための食糧や飲料水、毛布などの物資は十分でない。
・水源が汚染されたときの対策はしていない。
・避難者の放射能汚染をスクリーニングするための機器はない。
・有田町で避難受入れをすることを町民に告知していない。
・有田町民の避難については決まっていない。
・原子力災害の専門的知識を持つ職員はいない。研修を受けているのは2名。

【武雄市の回答の概要】*武雄市は伊万里市からの避難受入先
・避難者の食糧や飲料水、生活物資は伊万里市で調達する。
・災害時要援護者の支援については、武雄市独自の計画はなし。
・飲料水の放射能汚染を武雄市独自に調査する体制はなし。飲料水が汚染された場合は市で備蓄している飲料水や市内の飲料水メーカーとの応援協定で確保。
・避難者の放射能汚染をスクリーニングする機器はない。
・避難受入れについての市民への告知は不十分。
・武雄市民の避難について具体的な計画は立てていない。
・原子力災害の専門的知識を持つ職員はいないし、特化した予算措置もたててない。
・対応に当たる職員や消防団員等の安全対策に課題がある。

【佐賀県の回答より、2013年11月30日に行われた広域避難訓練の内容】
・避難所まで避難訓練に参加した人数は、人口比にして、玄海町11.4%、唐津市0.2%、伊万里市0.3%。
・要援護者の避難訓練に参加した人数は、要援護者と模擬役合わせて、玄海町1人、唐津市35人、伊万里市6人。
・自家用車による避難訓練の参加車両台数は、玄海町11台、唐津市1台、伊万里市3台。
・離島からの避難訓練は、松島、向島で実施。全人口131人に対し、参加したのは22人。
・佐賀県は避難時間推計シミュレーションの結果を出せていない。
・SPEEDIの情報を住民に伝達する訓練まではしていない。

■ 各自治体の回答から明らかとなったこと
1 事故時に素早い対応ができるのか極めて疑問。
「屋内退避や避難指示は、国や県の指示に基づき又は市町の判断により市長が住民へ避難等の指示を発令することになっている。(唐津市回答)」とのことだが、結局誰が判断するのか?

緊急時には市町が判断することもあり得るが、専門的知識を持った職員や部署がないし、各市町村独自のシミュレーションも行っていないため、不可能と思われる。

また、防災行政無線が整備されていない伊万里市を例としても、事故時に情報を素早く市民に伝達できることを到底期待できない。

2 避難手段、避難ルートの確保ができていない
自家用車が原則とされているが、伊万里市は車で乗り合っての避難シミュレーションは行っていないと回答し、さらに、国道や市道の整備が十分でないと回答している。唐津市でも、自家用車による避難が困難な方がどの地区にどれだけいるか把握していないとのことであり、そのような方々の避難手段は確保されていないといえる。

自治体間の協議もできておらず、境界を超えた円滑な避難は期待できない。

玄海町は、道路が封鎖された場合には佐賀県に対応を期待しているが、そのための人員配備をする時間があるのか、人員を割けるのかに疑問がある。

佐賀県は、避難時間推計シミュレーションの結果をいまだに出せておらず、そのような中で、適切な人員配備ができるはずもない。

3 要援護者の避難が実現困難
いずれの自治体も要援護者の避難に大きな課題を抱えていることが明らかとなった。

特に、病院・施設等については、それら病院や施設に計画策定が丸投げされている状況であり、自治体は策定状況の把握すらできていない。

要援護者の避難は実現不可能である。

4 受入れ体制の不備
有田町が特に率直に回答しているが、スクリーニング機器どころか、生活物資すら整備されていない自治体もある。武雄市では、放射性物質で汚染されるはずの伊万里市から食糧や飲料水を調達するとの回答もなされており、受入れ体制に大きな不安を感じる。

5 再避難が検討されていない
小城市・有田町・武雄市は、避難受入れ自治体だが、いずれも再避難の計画は立てていない。これら自治体は、再避難が必要になった場合には佐賀県の対応を期待しているようだが、佐賀県はいまだ広域的な避難計画を示すことはできていない。仮に再避難が必要となった事態には、大変な混乱が予想される。

6 長期避難計画の不存在
いずれの自治体も、長期避難計画は立てていない。

結論として、原子力災害対策は実効性のないものといえます。新規制基準が原発の事故を絶対に防ぐことができない以上、実効的な原子力災害対策ができていなければ、原発再稼働は許されません。

佐賀県知事は、「(既存の)地域防災計画の活用で対応は可能。今の段階でできていないという認識には立っていない。」と会見で述べたそうですが(2014年2月7日付朝日新聞より)、各自治体の状況、避難訓練の貧弱さからみて、「できていない」ことは明らかです。県知事には、県民の命と健康を守る立場にある者として、もっと真摯に考えて欲しいと思います。

また、国には、実効的な避難計画策定が再稼働の前提条件となることを明確にし、論理的な説明をして欲しいと思います。

・・・・・・・・・・
■ 質問状を提出する中で出てきた課題
1 避難させればいいのか
避難計画が完璧になったからといって、原発再稼働が許されるとは思いません。完璧な避難計画で人は逃げることができても、土地・財産は全て捨てなければなりません。そして、フクシマの例をみれば明らかなとおり、捨てざるを得なかった土地・財産の補償はほとんど絶望的です。

いざという時に財産を捨てることを強要する施設は、そもそもの存在がおかしいのではないでしょうか。

2 避難支援にあたる公務員や病院・福祉施設職員等に対する責任の所在
自治体の避難計画では、公務員や病院・福祉施設職員などが、住民避難の誘導や支援にあたることになります。これらの方々は、自らも被災者となるわけですが、どこまで仕事に責任を持たなければならないのでしょうか。また、これらの方々が、避難支援の際に被ばくし、健康被害を受けた場合、誰が責任をとるのでしょうか。

自らの身や家族を犠牲にしてまで他人の避難を支援するよう求める体制は整えられていないのではないでしょうか。

                                 以上

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